南極に学ぶ極地の生活

 

SIM中にクルーの一人、村上から1冊の本を借りた。「南極越冬記」という本だ。日本で初めて越冬事業を成し遂げた11人の越冬隊。隊長の西堀栄三郎による日記だ。自分と縁もない南極での生活の記録に興味がわくのか、という思いで読み進めた。読みだしてみればどこかで身に覚えがある。この宇宙船での生活だ。南極と宇宙。それぞれ全く違う空間であることは確か。しかしそこには共通点がある。厳しい環境で人を守る閉鎖空間に近い場所で生活をすること。物資は限られていて、あるもの、そこにいる人だけでだけで生活すること。この本には、極地における生活の知恵、経験が詰まっている。ここから学べることは何だろうか。

 

長期間に及ぶ閉鎖空間での生活。ずっと気を張り続け1つ1つのことに一生懸命になりすぎると疲れてしまう。そこで大切なことは何か。西堀の言葉を借りると“能率”だ。西堀は能率という言葉をこう説明している。「目的を果たしながら、最も要領よく手を抜くこと」

 

わたしたちは普段、1つの目標、やらなくてはいけないことにものすごくエネルギーを注いでいる。仕事が終わり、家に帰ってバタンと倒れる。これを毎日繰り返すのではなく、その過程でいかに上手に手を抜くかがポイントなのだ。どうやるかは難しいところ。しかしながら、例えば電化製品などのトラブルがあったとして、その状況を見ただけで原因がわかるひと。全部分解しないと原因がわからない人がいたとする。これも能率を意識しているかどうかの結果である。いつもと違うという感覚を意識できれば察するのは早い。いうなればそれが習慣化されている。普段から何気ないところにも気を配ることでそのポイントが見えてくるのではないか。

 

西堀、今回のSIMクルーであり、ディレクターの村上に共通点を見つけた。それは、情況を汲み取り、頭の中でいくつもの選択肢が用意できる且つその時に応じて最善だという選択を冷静に判断できること。極地にはそういう人間が必要なのだろうか。

 

南極の経験と宇宙船での生活。遠いようで近い不思議な関係である。

ジャーナリスト 高階美鈴