After The SIM

Daisuke Kasada / Mission Specialist

SHIRASE 5002を火星へ向かう宇宙船と捉えた模擬宇宙生活実験「SHIRASE EXP.」。私はこの実験にクルーとして参加しました。

 

4名のクルーが16日間にわたり、宇宙船の中で共同生活をする本実験。この宇宙船というのは、いわゆる閉鎖空間でした。ここでは外部との接触の手段は地球管制室(CAPCOM)とのメールでの交信のみ。実際の火星でも想定される、往復6分間のタイムラグの中で交信をします。さらに、物理的なところでは、宇宙船には窓がありませんでした。太陽の動きから生活のリズムを作るという当たり前のことから、私は生まれて初めて外れることとなりました。

 

宇宙船での暮らしは、普段の暮らしと比べると様々なものが制限されていました。シャワーを浴びれるのは4日に1回、食事は3食フリーズドライ食品かレトルト食品。水の使用量は1人あたり1日2~3リットルに決められています。ほとんどの時間を4人の共有スペースで過ごし、寝るときは2人1部屋の自室に戻る。それがここでの私たちの暮らしです。

 

私たちが16日間してきたことというのは、今思うとこれが全てだったようにも思えます。これらの暮らしの全てが経験したことのないことで、私は慣れるのにずいぶん時間がかかりました。そんな制限の中でどう暮らしていくか、私たちは考え続けました。2019年2月23日ここに入って私たちが最初にしたことは会議でした。宇宙船というものの特性上、常にだれかが起きていなければならなかったため、誰がどの時間に起きているかを決めなければなりませんでした。1時間程度の会議でそれぞれの生活リズムを決め、ある人は自室で就寝、ある人は食事と、宇宙船での暮らしが始まりました。

 

宇宙船の中には10個の部屋とそれをつなぐ廊下があります。私たちは何度かこの宇宙船から”外”に出ました。外と言ってもそこはSHIRASEの中にある広い機械室です。そこを宇宙空間と想定し、様々なミッションに挑んだのです。船外活動(EVA)と呼び、重たい宇宙服と生命維持装置を必ず着用して行いました。動きが制限される中、船内にいるクルーと無線で連絡をとり、本当にそこが宇宙であるという想定で私たちはEVAをしました。

 

この実験の目的には、最低3年間かかると言われる将来の有人火星探査に向けて、閉鎖空間の中でチームとして暮らしていく方法を検証するというものがありました。長期の閉鎖空間の暮らしに人間は耐えられるのか、どんな問題が起きるのか。人間の本質的な弱さや脆さを明らかにするために、この実験に参加する人は宇宙に携わる人である必要はありませんでした。そういった背景から私はこの実験に参加することができました。

 

私がこの実験に参加した理由は、情報が制限された世界に身をおくことで、自分が真に求めるものを見極めたいというものでした。しかし、閉鎖空間での暮らしの中で様々なものを欲する場面があったものの、実験を終えて感じたのはむしろ、情報が制限された世界の持つ豊かさでした。私はこれまで、たくさんあるモノの中から自らの意思で選び、それを持って生きていると思っていました。ですが実際には、既に多くのモノを持っていて、何かを得ては、他のものが溢れ、拾いを繰り返し、結果的に大事な何かが失くなっている。そんなことを続けていたのではないだろうか。人間が本来持つモノがそうして失われていくのだとしたら、私が求めるものは、情報が制限された世界そのものなのかもしれない。SHIRASE EXP.0からそんな気づきを得ることができました。

 

私たちクルーは当初の予定である16日間を宇宙船で過ごし、無事に地球に帰還することができました。その中で出た課題は少なくありません。それらが人間の本質的なものから生まれた課題であるか。さらなる実験を繰り返し、調べていく必要があります。SHIRASE EXP.は、人類が火星に住めるようになる時のために、そして今を生きる姿勢を考えるために、未来へ続いていきます。

 

Misuzu Takashina / Crew Journalist

今回のSHIRASEエクスペディション。16日間の生活を通し見たもの。経験したものというのは、宇宙の暮らしを考えることも勿論のこと、実際にわかったことは何だったのだろう。その断片について少し語ろうと思う。

 

4人しかいない船内の中では協力は必須。そこに潜む困難から得た今回のコミュニケーションの一例は良い結果であったと評価していいだろう。今回を成功例として挙げるにあたり大事なポイントであるのは、“イメージの共有”から成るコミュニケーションの形成というところにあった。

 

3交代制のシフト。今回このシフトがうまく働いた理由として、4人全員が揃う6時間を有効に使えたことにある。毎日10:00から2時間行われたCAPCOMとの定時交信は地球との交信を重点的に行う貴重な時間。ここから朝が始まり皆でご飯を食べる。それからミーティング。その後はEVAなどの作業を行うという大体の1日の流れ。4人の時間が十分に取れた。この中で最も重要な役割を果たしていたのは、ミーティングである。ミーティングでは主にその日の活動について話す。しかしここで障害となったのは言語の壁だった。隊長のヴェンザとは英語によるコミュニケーションが必須。4人のうち2人はまともに英語が話せるわけではない。ではなぜこのチームで連携ができたのか。それは“イメージの共有”というところにあった。全て言葉で伝えようとするのではない。内容から作業の段取り、役割など、事前に綿密な打ち合わせ。そしてお互いの頭に同じイメージを描き作業する。その過程でコミュニケーションが築かれる。同様にコミュニケーション力が問われたものがCAPCOMとの連携。宇宙においての生活は4人のみ。この4人の生活を地球側からサポートをするのがCAPCOM。通信では6分というタイムラグがある中、ここでも重要となったのはイメージの共有。相手のことを考えながらいかに明確にシンプルに伝えるかということがこの環境においての通信で大切になっているのである。

 

―生活について。生活の中のポイントは“温もり”と“安心”。これが閉鎖空間を過ごす上で快適さのヒントだ。

今回のクルーの4という数字。この数字は大きな意味を伴っていた。それはface to faceで話せる、ということだ。テーブルを挟み、2人ずつ顔を合わせる。全員の表情を確認しながらご飯を食べる。話し合いをするということに安心感を抱ける。共有スペースの利用。各自部屋にデスクがあるにも関わらず、自由時間は共有スペースで過ごしていた。その理由は、今回の広さに対し4という数字が圧迫感なくプライベートを守れたからである。また、全体として感じる木材の温もりというものも安心感につながるもがあったのではないだろうか。

 

―食事について。今回用いた食事のほとんどはフリーズドライ。種類に関しては多種多様。味もおいしい。しかし、量が限られているため必ずローテーションとなる。ここに「飽き」が来るのは必然的なものだ。その中で大事なことは、「飽き」を食器、盛り付け等の工夫でカバーすることだ。何かひとつ手間を加えることで同じ食事に変化がおきる。工夫をして調理するという喜び、作ってくれたという温もりを感じる。食事は人間の生命・精神に直結する。健康と心の豊かさを保つ。このバランスが大事なことだ。そして今回もうひとつ。女性からの視点として食生活を見直してみた。長期間に及ぶフリーズドライ中心の中、野菜や魚の摂取は難しく、栄養バランスも偏りが出る。女性の方がどうしてもフォルモンバランスに影響が出やすいという傾向がある中、これからどう宇宙での食事でその崩れを無くすことができるか。長期で健康に暮らすことを考えたとき、ここも見つめなおす必要があるのではないか。

 

宇宙船生活での特徴は文化や環境など、事前に何もない中で暮らしを作っていくということである。全てが制限される中で大切なことは想像力。そこからどうするか考える力。そしていつでも冷静で全体を見渡せる力。そういった力が要求される。この実験の意義というものが1回目を終え見え始めた。この先の展開がわたしたちに見せてくれる景色は一体どんなものなのか。これからが本番のSHIRASEエクスペディションである。